2011年10月21日

「伝統工芸」はいかが?

今年の「日本伝統工芸展」見学を機に、気まぐれに「工芸」というものについて少し記してみようと思い立ったところ、思いがけずとても長い記事になってしまいやむなく回を改めることにした、というところまでが前回の記事でした。

今回はその続きとなりますので、前回の記事をご覧になっていない方は、お手数ですがそちらを先に読んでいただくと以下の内容が多少なりとも読みやすくなるのではないかと思います。

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さて、今回は広い工芸の範囲の中で特に大きな区域を占めているであろう「伝統工芸」と呼ばれているもの(「工芸」≒「伝統工芸」と大づかみに考える方も少なくないように思いますし)に注目してみますね。

前回の記事の繰返しになるようで恐縮ですが、「伝統工芸」という分野に限った場合でもその呼称によってあらわされるものは多種多様でして、国の助成対象となるような大きなものでも、文部科学省が管轄する公益社団法人「日本工芸会」が文化財保護法の主旨に則して開催する「日本伝統工芸展」で公募、展覧する種のものと、「伝統的工芸品産業の振興に関する法律」に基づいて経済産業大臣が指定する「伝統的工芸品」に属するものの2つがあげられるかと思います。

前者が伝統的な技法を用いてものつくりをする個人の創作性や制作手法などを評価することを通して、それらの文化的価値の保存、向上を図ることに重きが置かれているのに対して、後者は地場産業の振興の観点から、伝統的な工法を守っている手工業の品質維持と事業者への経済的支援を目的として産地ごとに指定しているものになります。

ごく大雑把に言ってしまうと、監督官庁の違いからも明らかなように文化・学術的な側面から見た「伝統工芸」と、経済・産業的な側面から見た「伝統工芸」といった違いになるでしょうか。

ちなみに「人間国宝」という通称で広く知られている個人の「重要無形文化財」保持者は文部科学大臣によって認定されるものですから、芸能分野や一部の工芸(「日本伝統工芸展」の範囲には通常含まれない刀剣類や和紙など)を除けば、日本工芸会と全くかかわりを持たない方がそれに認定されることは今では事実上ありえないと言ってよいと思いますし、逆に「伝統工芸士」という資格は経済産業大臣が認定(現在では代理業務を行う関係法人が認定)するものなので、産地に属さない個人が取得することはできないことになります。これは管轄する行政の区分によることですから、制作者の美的資質や技量がどれほど優れていたとしても横断することは難しいはずです。

もし興味をお持ちでしたら、下のバナーアイコンからそれぞれのウェブサイトへ移動して主催団体の趣意書や優品例の画像などをご覧になれば、両者の違いをたやすく理解していただけるのではないかと思います。

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さてさて、常々その扱いに苦労をさせられている「工芸」という言葉のややこしさについて、回をまたいでまでグチをこぼしていたら、話がずいぶん本筋から外れてしまいましたね。

この記事でお伝えしたかったのは、現代における工芸というものの「とらえどころの無さ」などということではなく、言葉による分類が難しくなっている現在でも、そのような問題が取るに足りない小さなことと思えるほどに、制作者が心血を注いでつくりあげたもの自体が持つ力には少しも変わりがないということでした。

当初の目的に戻って日本伝統工芸展についていえば、まずはこの展覧会の大きな特徴として、制作に費やされたであろう手(≒時間)の掛かり具合が誰の目にも明らかである作品が多いという点があげられますから、制作者の情熱(執念?)と高い精神性のあかしとも言えるその仕事の量感にボクなどは毎回ごく単純に大きな感銘を受けています。

もちろん造形や色彩、質感や文様などの意匠の面についても、幾人かの出展者の方と浅くない縁を持つというひいき目を差し引いたとしても、その水準の高さに異論をとなえる方が多いとは考えにくいでしょう。

取り上げる分野は陶磁・染織・漆工・金工・木竹・人形・ガラス・七宝・石工など多岐に渡り、その意匠は優に一千年を超える歳月を経て磨き上げられてきた日本文化の結晶(のひとつ)とでも言うべきものを規範としているわけですから、一見するとこの展覧会には縁遠いようにみえるものつくりの分野、例えば同じ手工業でも技巧や作為的な表現から距離をおいた実用指向の道具であるとか、マスプロダクトを対象とした工業デザイン、さらに広げればグラフィックデザインや前衛色の強い美術、あるいはアニメやキャラクターなどに代表されるサブカルチャーとして位置づけられているもの等々により強い関心を持たれている方々にとっても、見るべき点が無いという展示では決してないようにボクには感じられます。

「工芸」あるいは「伝統工芸」という言葉に対するイメージや考えは人によって様々だとは思いますが、そういった言語上の厄介な問題についてはひとまず脇において、先入観のない無垢な気持ちでご覧になれば、その美意識や技芸の奥深さだけでなく、控えめに織り込まれた独創性や野心的な試み、あるいはちょっとしたユーモアや「ちょ〜カワイクね?」といった評価がぴったりの愛らしさをも楽しむことができると思いますよ。

なお念のためにお伝えさせてもらいたいのですが、日本伝統工芸展こそが工芸を包括するものだとか、工芸の本流であり最上のものであるとか主張したいわけではありませんのでどうか誤解されないでくださいね。

そのような意見をお持ちの方もいらっしゃることは承知していますが、「伝統工芸」という一応の枠組みでまとめられたこの展覧会と同様に、国内外で無数に開催される美術展やデザインアワード、銀座などにありそうな名門画廊といった場はもちろん、「クラフトフェア」などと呼ばれることが多い野外展示イベントや、西荻窪や下北沢あたりの怪しげな雑居ビルに見られるようなレンタルショーケース(貸し箱ギャラリーっていうんでしょうか?)といったもの、あるいは現代日本のメディア文化が持つパワーを象徴するシーンにも見える「コミックマーケット」(残念ながらいまだに脚を運んだ経験はないのですが)なんてものもものつくりの最前線としてそれぞれに代えがたい価値を持つようにボクには思えますしね。

本旨にはあまり関係ないのですが、ひとつ面白いデータがあるので紹介させてもらいますと、日本伝統工芸展の主催者のひとつであるNHK(の最新年鑑)によると2009年度の同展の来場者数は、半年ほどかけて全国12会場(いずれも各地の老舗デパートや公設美術館)を巡回して24万人弱なのに対し、2011年8月に東京国際展示場で開催された「コミックマーケット」の方はわずか3日間でその倍以上の54万人(主催者発表)ですから、その勢いたるや全く比較にならないほどですね。

いずれにせよ日本伝統工芸展だけに話を戻せば、鑑賞以外の用途を持つものを取り扱う企画として、これほど充実した展覧会が毎年開催されているということの価値と驚きをもっと多くの方、とくに「工芸」などという不可解な言葉でひとくくりにされてしまっているものに比較的なじみの薄い年若い皆さんにぜひ知っていただきたいなぁ、と分不相応なことを切に願っていたりするんですよ。

今年度は東京、名古屋、京都での会期がすでに終了していますが、今は大阪で開催中ですし、その後、金沢・仙台・岡山・松江・高松・広島・福岡・松山を巡回する予定となっているようですから、お近くで開催の折にはお出かけいただければ嬉しいですね。会場や日程などの詳しい情報については日本工芸会のサイトにてご確認ください。

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日本伝統工芸展、ちょっと持ち上げ過ぎかなという気もしてきたので少しだけ言いにくいことも記しておきますと、数多い展示品の中には思わず首をかしげてしまうようなものがまぎれ込んでいることもごくごくまれにあったりする(出品された方の肩書や経歴などを知って妙に納得しちゃったりして)のですが・・・

それはまぁご愛嬌ということで。
posted by nakoji at 22:19| 日々のあれこれ