2013年08月25日

しゅくだい一冊

8月も残りわずかとなってようやく朝夕過ごしよい候になってきましたが、今夏の暑気は本当に厳しいものでしたね。そんな盛夏をやり過ごすには、昼下がり、活字をボンヤリ眺めながら夢うつつというのも良いものです。


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    脊梁山脈 乙川優三郎 著


手にとる書籍といえば図録や技術書など資料的なものばかりで、小説を楽しむことなど本当に少なくなった近頃なんですが、先日実家で目にした単行本の帯に「木地師」の文字を見つけ、不思議に思ってひらいてみたのが「脊梁山脈」でした。

今更のご紹介かもしれませんが、そのむかし木工ろくろを携えて奥深い山林を渡り歩き、木器を作って暮らしていたとされる「木地師」の源流を探るというなんともマニアックな題材を物語のたて糸とする小説です。

惟喬親王(これたかしんのう)や百万塔など、木地を挽く者にとっては馴染みある逸話が筋書きの上でも要点として扱われていて、興味深く読み進めることができました。木工芸、とくに挽物仕事に関心のある人ならきっと楽しめる小説ではないかと思いますよ。

物語のよこ糸としては、耽美的につづられた恋愛話や古代史の闇をめぐる著者独自の推論なども織り込まれていて、木工に興味を持たない方にもエンタメ小説の佳品としてオススメできる一冊かもしれません。

ちなみに乙川優三郎さん、蒔絵師を題材にしたお話も書かれているようで、木漆工芸にはひとかたならぬ関心をお持ちのようですね。今後の著作にも注目してみたいと思います。


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ところで「百万塔」ってご存知でしょうか?奈良時代に国の安泰を願う称徳天皇が作らせた木製ろくろ挽きの三重小塔で、10の寺院に10万基ずつ、合計100万基を寄進したことから百万塔と呼ばれています。なかにおさめられた経文が制作年代が明確な世界最古の印刷物とされていることでも有名ですね。


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以前、奈良期オリジナルの百万塔を間近に拝見する機会があったのですが、純朴な信仰心と無私の手仕事の尊さを感じさせるとても美しいものでした。(予備知識による先入観の影響も大いにあったとは思いますが)


posted by nakoji at 18:23| 日々のあれこれ